2023/11/28

守娘 上・下巻 小峱峱(シャオナオナオ)さん


 小峱峱さん。台湾のおそらく女性の作家さんです。「峱」は大陸側の山東省にある山の名前で、そちらがルーツの方なのかもしれません。X(twitter )のアカウントを拝見すると明るい色づかいの作品が多く、本作の画面の暗さは題材に合わせた意図的なものだと分かります。


 この物語は清末の光緒年間にできた「陳守娘」という鬼女伝説を基にして、ヒロイン「潔娘(ゲリョン)」をはじめとするオリジナルの登場人物たちを加えて組み立てられています。当時台湾の最大都市だった台南でそれなりの家格の家に生まれた潔娘ですが、当時の風習「纒足」は施されず結婚に興味を示さない娘です。ある日若い女の水死体発見現場に出くわし、そこで儀式を行っていた「守娘(シュウリョン)」に出会い、そこから怪異と事件に巻き込まれていく、ホラーかつミステリ作品です。


 この作品の最大の魅力は絵ですね。デッサンと平面構成をしっかり学ばれたとはっきりわかる実力。そして見開き単位で(製作中のその時々で発想されたと思いますが)微妙に異なるタッチや処理を試みられています。この「見開き単位」というのが特徴的で…かなり変則的なコマ運びなんですが、コマを出来事の連なりとして並べるというより、見開きを一枚の大きな絵として捉えて個々のコマはその中で配置されるエレメントとして(視覚的な美しさを重視して)配置されている感じです。見づらさを感じる方もいらっしゃるでしょうが、私は気に入りました。ところどころ中国の書画の伝統を感じさせてもくれます。


 ストーリー展開的には時系列が一直線でなく過去に飛んだりすることもあって、やや分かりづらかった(前述の「陳守娘」のパートとか初読時は???でした)ですが、必ずしも欠点ではありません。ただシーンの切り替えはもう少しはっきりした方がいいと思います。


 この作品を貫いているのは女性たちを虐げる社会構造への静かな怒りなのですが、個々のディテールには目を背けたくなるものもありましたね…。日本と関わる前の台湾には無知だったのですが、18世紀に大陸側で人口が急増して、台湾への移民も増えたのですが出身地の違う集団同士の争いもあったりして、社会が安定するのに時間がかかったという事情もあるようです。物語の結末で潔娘は望ましい居場所を手に入れるものの、光緒21年に台湾は日本に編入され、反対派が建てた「独立国」は日本軍に鎮圧される未来が待っています(纒足に関しては大陸より一足早く廃れていったようですが)。


 とにかく買って良かったと思える作品で、この方の次回作もぜひ日本版が出てほしいものです(編集さんの日本人読者に向けた注釈も丁寧でした)。