2023/02/26

涙子さまの言う通り 1巻 山本ルンルンさん


 デフォルメの効いたポップな画風で知られる山本ルンルンさん。そのイメージとは大幅に異なる、新境地と言える作品です(小さいお子さん向けではないので注意)。


 今年でデビュー25周年の山本さん、ハルタでの最初の連載は2015年開始の「サーカスの娘オルガ」でした。これは山本さんの従来の画風の延長線上だったのですが、全3巻のうち3巻部分は子供だった登場人物が大人となっての展開でした。この「大人編」の執筆経験が「涙子さま…」に繋がったのでしょう。これまでの作品よりぐっと大人っぽいリアルな絵作りで、連載第1話を読んだ時は驚きました。


 昭和8年、その占いがよく当たると政財界に評判の新興宗教「慈愛の涙」。そこで働く女中が変死体で発見され、刑事・沢渡は少女教祖・涙子に面会を求めます。涙子の周囲には死人が続出。疑念を深める沢渡…。というのがこの巻のあらすじです。


 リアルな絵と書きましたが、所々もともとの山本さんらしさも残る、少しユルい絵です。でもそれがストーリーの猟奇性と絶妙なマリアージュで…隅から隅まで隙のなさ過ぎる絵だとこの読み味にはなりません。そしてコマ割りとか構図とかが、とにかく上手いです。これからどうなっていくのか…とにかく楽しみです。


 山本さんは「朝日小学生新聞」でも執筆されていて、「涙子さま…」の連載は掲載が不定期です。2巻に収録される分は現在3話が掲載済ですが、半年近く掲載に間が空いたりもするので気長にお待ちください。


 他のハルタ掲載作に興味のない方には関係ない話ですが、「サーカスの娘オルガ」が(恐らく)日露戦争後の明治30年代末から大正10年頃の話で、「煙と蜜(長蔵ヒロコさん)」は大正6年に始まります。そして「燕のはさみ(松本水星さん)」は大正10年から昭和7年で「涙子さま…」が昭和8年と、別々の作品ですが繋がってます。

2023/02/23

真柴姉弟は顔が固い 全1巻 菊池まりこさん


 菊池まりこさん(「菊池真理子」という作家さんとは別人)。fellows!〜ハルタの作家群の中でも私が最も期待していた方のひとりです。その最新で、もしかしたら最後かもしれない単行本です…。

 2011年「菊池るち」名義でデビューされ、改名後に始めた連載が「カプチーノ」でした。キラキラしたややハイテンションなラブコメ。菊池さんといえばこの作品という方も結構いらっしゃるようです。当時の担当編集さん(女性)は勝手に憶測するに80年代少女漫画に浸かって育たれた方で、その意向が結構反映されてたのかな…という気もします。

 連載2作目の「公安部特異人種課56」以降の担当編集さん(男性)は現在スパイがタイムスリップする話を担当されてて、そういうのがお好きなんでしょう。超能力者同士のバトルものでした。編集主導で話を作るのが悪いわけではないですが、結果として菊池さんに合っていたとは言えません。私がハルタの購読をやめていた間に始まったこの連載を目にした時、「カプチーノ」の菊池さんとわからなかったです。それぐらい作品の雰囲気が違います。


 時間を置いて始まった「真柴姉弟は顔が固い」。極度の表情の乏しさから「ふたりぼっち」の姉と弟でしたが、転校先の高校で少しずつ姉のあかりには友達ができ始めます(弟の透は何もなし…連載が続いていれば違ったのでしょうが)。


 この作品、コメディーですしもちろんそこも面白いのですが、合間にふっと現れる少し寂しげな瞬間がいいんですよ…「カプチーノ」でも「公安部…」でも引き出せていなかった菊池さんらしさだと思います。


 画力も上がりようやく本領発揮か…と期待しましたが、いかんせん健康上の理由ということで連載が続きませんでした。単行本の表紙イラストというのは作家さんにとってキャリアを左右する存在でみなさん力を入れられてますが、この表紙は連載原稿から再構成されたもので、新規にイラストを描ける状態ではないということですね…。

2023/02/22

イベリスの花嫁 2巻 秋山はるさん


 単行本として改めて読み直したあと、少し天を(室内なので正確には天井)仰いでました。もうそんなナイーブな思いを持つような歳はとっくの昔に過ぎてるんですが…なんでもっと注目されなかったかなあ、売れなかったかなあって…。「百合」好きの間ではある程度話題になってた様子ですが、その外でもっと広く読まれてほしかったです、この傑作が。


 ホテルの式場でウェディングプランナーを務め、自分自身も婚約者(男性)との式を控えた美月はある夜、駅の反対側のホームに佇む女性と目が合ってしまいます。その後上司の福永のツテで訪れた婚約カップルの一方がその女性、七海でした。婚約者だけでなく福永とも交際する七海ですが、美月は強く惹かれていき…というのが1巻のあらすじです。


 この2巻。婚約者と別れ七海にのめり込んでいく美月ですが、複数の人を愛さずにいられない七海との生き方の違いは埋めがたく。やがてプランナーとしての美月が七海の式に立ち会う日が訪れます。そして3年後…。


 この作品の何がいいって、シーンの流れがスムーズで無駄がないんです。その流れの中で各人の心理が細やかに浮き彫りにされていく…当初想定していたより短くなった(打切り)のはほぼ間違いないと思っていますが、怪我の功名というべきか2巻はより凝縮され純度の高い内容になっています。


 秋山さんの過去の有名作「オクターヴ」と比較すると、絵が明らかに良くなってます。その点でもより楽しめます(あとオクターヴはエロシーンが必要以上に多かった…)。次回作、期待してますホントに…。

2023/02/19

月刊アフタヌーン23年3月号


 なんかこの号は厚いですね…。

最果てのセレナード 3話 ひの宙子さん


 この3話でグッと面白くなるんです。文化祭の合唱伴奏の練習で小夜との時間を作る「過去の」律ですが、本番で小夜は母親に登校を止められます。鬱屈した思いをノートに書き殴りますが…。いっぽう「現在の」律には発見された白骨死体は小夜の母親らしいと電話が。このノートが重要になってくると思います。

メダリスト 31話 つるまいかださん


 主人公・いのりのライバル狼嵜光(かみさき・ひかる)の演技が始まりますが、直前に演技した八木夕凪(やぎ・ゆうな)に光が声をかけます。同じクラブ所属なのに夕凪は光にわだかまりがあり、このシーンでそれが溶けるかとも思われましたが、光が跳んだジャンプが…この先の展開に二人の関係は影響してきそうです。光の演技シーン、すごい!


クオーツの王国 2話 BOMHATさん


 案の定というか、ダークパワーに目覚めた少女ブルーは悪魔を粉砕します。ストーリーに深みはなさそうですがどこまで絵が上達するか楽しみ。

波よ聞いてくれ 87話 沙村広明さん


 絶賛遭難中のミナレと瑞穂。限界かと思われましたが…ここ何話かちょっと絵が崩れてない?という気がしてましたが今回いいです(追記:過去にアニメ化されていますが、新たに実写ドラマ化されるそうですね)。

ヴィンランド・サガ 199話 幸村誠さん


 そしてこちらも絵が充実してます。隅々まで行き届いてて、いいなあ…。

月刊アフタヌーン23年2月号


 実にオショーガツ感あふれる表紙です!ヴィンサガが表紙に載ってますが休載。

メダリスト 30話 つるまいかださん


 京都のクラブ所属、鹿本(かもと)すず。彼女の回でしたね〜。全国に進めず観客席にいる同じクラブの絵馬も健気でした。

クオーツの王国 1話 BOMHATさん


 「ボムハット」さん、カナダの方でツイートで見た感じでは男性のようです。天使の守る国と襲いかかる悪魔。柔らかいタッチで美麗な絵、好みです。粗いところもありましたが初連載の第1話でここまで描けるのは大したものだと思います。

最果てのセレナード 2話 ひの宙子さん


 小夜の母親登場。心を開いた小夜の演奏に「あんなピアノ」と言い放ちます。コンクール審査員受けするピアノを小夜に弾かせる彼女に「律が」抱く殺意。アフタヌーン公式で「母殺し」と言っちゃってますし主犯は小夜なんでしょうが、記者をやっていて小夜を「狩る」立場になるであろう律が狩られる側に回る事はないのか気になります。

来世は他人がいい 31話(前編) 小西明日翔さん


 アフタヌーン購読を始めた時は「上手いけどクセがあるなあ」となかなか入り込めませんでしたが、単行本を読んで好きになりました。

月刊アフタヌーン23年1月号


 ではこの号から感想を書いていきます…。

最果てのセレナード 1話 ひの宙子さん


 「ひの・ひろこ」さん、以前はフィールヤングで描かれていたようですが私は初めてです。東京で週刊誌の編集者をしている律。中学(北海道)の同窓会の電話をきっかけに、途中で転校してきた小夜の記憶が蘇ります。


 まあ百合なんですがそれに留まらず、ミステリー色があります。こういう過去と現在を行き来しながらジリッジリッと謎解きが進む話、私大好きで…「ジーンブライド」なんかもそうですね。絵は物足りなさを感じなくはないですが、描き続けると良くなっていくと思います。ただ小夜の演奏シーンは鮮烈で良かったです。

メダリスト 29話 つるまいかださん


 全日本大会始まりました。プレッシャーの中、いのりは公式練習で4回転サルコウを成功させました。

ヴィンランド・サガ 198話 幸村誠さん


 イーヴァルとミスグェゲブージュがもたらした緊張。禍の根を絶とうと決意するヒルドですが…このまま行くとトルフィンとヒルドは何らかの形でぶつからざるを得ないと思うんですが。191話でヒルドはトルフィンの過去を許しましたが、それもこれからの展開に向けての地ならしだったのかもしれません。