2023/08/09

帝都影物語 3巻 比嘉史果さん


 比嘉さんの最初の連載「真昼の百鬼夜行」。短編の連作でしたが、回を重ねるにつれぐんぐん伸びて、「これは…!」と期待したものの(私の主観では)突然の終了。4年近くの空白を経て20年8月始まったのが「帝都影物語」です。ヒット作とまでは言えないものの比嘉さんの知名度は格段に上がり、具体名は挙げませんが美少年皇子と影武者というよく似た後発作品まで登場しました(まあ勲章ですよね)。


 比嘉さんの連載が始まったこと自体はとても嬉しかったのですが、最初の頃は「意気込みは感じるけどギクシャクしてない?」とも思いましたし、(今読み返せば必要なエピソードだったとわかりますが)途中不満を覚えたこともありました。


 ですがこの3巻は、繊細な線と素晴らしい構図、装飾性が加味された美麗な絵の面。そして話作りの面でも、「真昼の百鬼夜行」の頃は想像できなかった高みに達しました。特に3巻後半の流れは本当に本当に素晴らしくて、終わるのを惜しむ気持ちより「ああ、ここまでやってくれた」という晴れやかさがありました。


 物語は(あくまでフィクションですが)皇位の継承争い。大人たちの思惑により弟の「冬宮」から命を狙われるようになった「春宮」周辺が貧農の子、一矢を「影」として立てたことで進んでいきます。春宮は影にきつく当たりますが、その理由もこの巻で明らかになりました。帝の御前で「慈悲の心」を証立てることになった春宮(を装った影)に冬宮側の妨害が…。結末はぜひご自身の目でお確かめください。繰り返しますが素晴らしい。


 この3巻に不満を見つけるとすれば「おまけ」がないことですかね…2巻にはあったんですが。でもこの方が余韻を感じられるかもしれません。「もう少し何か」と思われる方、ハルタ100号の付録に収録された「晴鷽」と「荊内侍」のエピソードなんかもあります(まだ新品で入手できると思います)。