2023/08/12

あかねさす柘榴の都 3巻 福浪優子さん


 「あんたのプロフィールにあるイイマンガって具体的に何?」と聞かれたら、今はこの作品を挙げると思います。デビュー作を読んで気に入りつつも「漫画を続けるにしても知る人ぞ知る感じじゃないかな…」と思ってしまった福浪さんですが、検索すると完結を惜しむ声がたくさん出てきて、私も(何もしてませんが)嬉しくなリます。


 スペイン南部を舞台にしたこの作品を振り返ると、連載が始まったのは21年3月。パンデミック宣言から1年以上経っていました。福浪さんが連載に向け現地を取材できたとはちょっと考えられず、少なくとも前半は(この巻の末尾にも記されていますが)現地在住の旅行関係の方等を経た間接的なものにならざるを得なかったはずで、その点もご苦労があったと思います。でもこの巻でのアルハンブラ宮殿の描写などは直接ご覧になったんじゃないかなという気がしてます(推測ですが)。



 1巻から3巻までを家の新築に例えると、1巻は土台・骨組から1階の外壁ぐらい(この頃は描くのにいっぱいいっぱいな感じもありました)、2巻は2階建のハードウェアが完成まで(めざましく成長されました)。そしてこの3巻はインテリアを整え「住まい」にしていくような、ちょっと違うベクトルを感じました。


 直接的なセリフやモノローグに頼らず読者に解釈させるスペースを空けておくのが「福浪流」だと思っていましたが、この巻のアルハンブラ編以降はそうでもなくなってるんですよね。最初は連載を1話ずつ読んでましたので、19話あたりは少し戸惑いました。


 ですが単行本で通して読んではっきりしましたが、「どこに住み何者になるかを選択する」というのが物語のテーマで、19話の「王女の塔」エピソードもそのためでした。両親を(おそらく事故で)失った夏樹を彼が18になるまでグラナダに迎え入れ、彼の成長を見届けた上で英国に旅立ったアルバ。一度日本に戻ってみた上で改めてグラナダでの生活を選ぶ夏樹。「ゆるい日常異国暮らし漫画」というのも間違いではないですがそれだけでもないよ、と思います。


 連載が5月に終わり、通常なら翌月に出るのが7月になった単行本ですが、おまけもとても充実していて結果としてお得でした。福浪さんも「お遊び」する余裕があったようです。(下の画像は購入特典ポストカードのアップ)。