2023/12/24

贋 -まがいもの- 1巻 黒川裕美さん


 黒川裕美さんの作品(寡作ですが)について考えると、多くの作品で主人公が抱く望みは決して叶えられないか、叶えるのが破滅につながることに気付きます。主人公たちもそれがわかっていて情熱を燃やす、そこに感動が生まれます。


 「夕凪に舞え、僕のリボン」に続く2作目の長編である本作。日本画の模写に関しては飛び抜けた才能を持ちながら、時流に合わない幽霊画にこだわり全く売れない画家、内海馨。居候先の娘ふたりを守ろうと「一度きり」と贋作づくりに手を染めたものの…という、シンプルなストーリーです。犯罪ものであり疑似家族ものであり、「漫画家漫画」とは違いますが一人の絵描きとして「創作とは何か」と向き合う話でもあると思います。


 ストーリー面ではあーだこーだ言わずに見守っていくつもりですが、黒川さんの絵については書いておきたくて。ネットで「〇〇からしか摂取できない栄養がある」という言い回しがありますが、単行本で黒川さんのアナログ作画を堪能した感想がまさにそれでした。もちろんデジタル作画も楽しめますが、どこかツルッとしてこちらのツボに届ききれない感じもあったなーと…本作での黒川さんの紙にペン先がこすれることでしか生まれないタッチの妙を味わうと、やはり差はあるなと再認識しました。


 あと、黒川さんにはなんの責任もないのですが、その素晴らしい作画がweb上の連載時点ではスポイルされてしまっているというのは言っておきたいです。大人の事情があるのでしょうが、縮小された印刷でしか目にすることができない読者より、生原稿を見ている編集さんの方がずっとわかってると思います…改善を願います。