2023/10/03

犬とサンドバッグ 上下巻 尾崎かおりさん


 この感想を書く前に尾崎さんのひとつ前の連載「金のひつじ」を改めて読み直してました。というのは昨年出た上巻の時点では、これだったら「金の…」の方がはっきり面白いな…というのが正直なところだった(通して読んで上巻の欠点はテンポの遅さだと気がつきました)のですが、下巻になると全然こっちも面白いじゃないか…と検証の必要を感じたからです。


 読み比べた結果それぞれの良さがあるなあと面白味のない結論になりましたが、思わぬ副産物がありました。両作品に共通する「人生は(そして世界は)移ろって元のままではいられないけど、それを受け止めて生きていこう…自分も老いて消えていくけど、若い誰かに橋渡しをしていこう…」というメッセージを見つけた、ということです。


 「犬とサンドバッグ」は太平洋の離島(といってもそれほど本土から離れてませんが)を舞台ににした34歳の「日子」と23歳の「チマキ」の恋物語。崩壊家庭で育った日子は(父と飼い犬を捨て)東京で孤独に暮らしていましたが年上の「侑」との不倫に行き詰まり、なかば死に場所を選ぶように島に戻ります。一方のチマキは人の言葉を真に受けてしまう性質から双子の弟を死なせてしまい、海外を放浪のすえ島に戻りくすぶっています。


 両者のほかに、チマキに惹かれる女子高生モモ・弟を殺したチマキに屈折した思いを抱く母・両親の不仲に心を痛めるチマキの姪「ひまり」・そして日子とヨリを戻そうと島にやってきた侑といった多彩な人々により物語は紡がれていきます。

 クライマックスに向けてひまりが展望台に登るいきさつなんかは、読んでてもう少し早い段階で伏線を張っててくれたら…と思わないでもなかったですが、機械時計のムーブメントみたいに一分のスキもなくカッチリ構築されるとこの読み味にはならないんですよねやっぱり…。


 繰返しになりますが、最初の方に書いた「橋渡し」というメッセージ…ビキニを着るハメになる日子や侑の飛び出たお腹といったトホホな感じも含め、尾崎さんの「年の功」を感じましたし、若い方が読んでももちろん面白いと思うのですが私のような年寄りには沁みますね(実生活で全然橋渡しできてない…)。