2022/12/11

フロイトの燃える少年の夢 全1巻 森泉岳土さん

 先日の小学館の短編集に続いての購入。約80ページで1650円。店頭で薄さに「う…」となりましたが、今のご時世しゃーないかと買いました。


 海外文学の夢のシーンを抜き出して漫画化した作品集ですが、森泉さんのオリジナルパートも挿入されていて、女性が夢の中で読む本を追体験する(と解釈できる)コンセプトになってます。いわゆる「漫画」とは隔たった世界ですし私もそう何回も読み返したいとは思いませんが、これはこれでアリかと。

 購入の最大の動機は画材なんです…オフセット印刷が始まったのは20世紀初頭で、当時の製版技術で(低コストで)階調を表現するのに限界があったのでペン画がカートゥーンの主流になったというのはわかります。ですが120年近く経過して、例えば鉛筆やパステルで描いても製版で拾うのは容易になってますし、デジタルであればカラーでもコスト的な差は無視できるわけで、つけペンのモノクロ画が漫画のほぼ全てというのがいつまで続くのかなあ…と個人的にずっと思ってることなんです(ペン画が嫌いというのじゃないし、むしろ大好きですが)。鉛筆の漫画というと(ハルタ前身の)fellows!での幹ユヤさんという方の読切なんかは記憶に残ってますが、点で終わって線にならないんですよね…。

2022/11/30

月刊!スピリッツ23年1月号

 3・4号前はアフタヌーンとほぼ同じ厚さでしたが、ご覧の通りです。しかも約490ページのうち168ページが新人さんの読切。ここまで来たし書いちゃいますが、私個人は来年夏〜秋でご臨終じゃないかと思っています…できれば予想が外れてほしいですが、どうせ私が買うのは来月が最後だしな。「映像研には手を出すな!」「暗殺後宮」あたりは週スピに移行でしょうね…元々「月スピ編集部」というのが存在するわけではなく、週刊の合間に作ってた雑誌ですし。

イベリスの花嫁 10話 秋山はるさん


 前回ヒキからはもっと個人的・社会的破滅を予想してましたが、わりと穏当だな…と思ってたら最後でまた判らない感じに…今回阿波くんが良かったです。秋山さん構想の尺では彼ももっと活躍できたんじゃないかと思うと不憫ですが。

犬とサンドバッグ 6話 尾崎かおりさん

 修正しましたが前回「月とサンドバッグ」と書いちゃいまして失礼しました…日子の過去編。面白かったです。単行本上巻は12月12日発売です。

暗殺後宮 15話 緒里たばささん


 権力を手放したくない祖母に儀式の失敗を仕向けられる暁星くん。以前はキメのシーンを描きたいあまり強引な展開もあった気がしますが、今回シーンの繋がりや笑いとシリアスの切替えが滑らかになってきて、私の中ではイロモノ枠から脱しつつあります。

2022/11/28

たまご 他5編 光用千春作品集 全1巻

   「みつもち・ちはる」さん、20年刊。ビッグコミックオリジナル増刊に掲載される読切が好きなのですが、今の掲載ペースだと単行本が早くて24年ぐらいな感じなので買ってみました。

 私は読む漫画を選ぶのにどちらかと言えば絵を重視して、美術教育を受けたデッサンのしっかりした絵が好みです。この方の絵は全くそういう方向ではないですが、引きつけられるんですよ。インタビューを読むと光用さんは美大に行かれてたそうですが。

 人として生きていく上で欠かせない他者との関わりで生ずる鬱屈。それが膨れ上がっていくさまが描かれています。子供が親に抑圧される話も複数ありますが、親がそうなってしまった原因も描かれているのであまり責められません。ですが多くの話はトンネルの先の光のように「救い」の可能性が示唆されていて、少しはほっとできます。

 いちばん好きなのは「星に願いを」、次が「エリコとカナコ」です。


 ここに収録された作品はこんな感じですが、今年発表された作品はもう少し写実寄りの絵ですし表現も進化してます。そしてこれからの作品がどう変わっていくのか、それが気になる作家さんです。寡作でも連載がなくても、こういう方がいるというのは大事なんです。

2022/11/26

爪のようなもの・最後のフェリー その他の短編 全1巻 森泉岳土さん

 

 20年刊。森泉さんの初購入単行本です。ビッグコミックオリジナル増刊を購読している関係で「佐々々奈々の究明」を読んでいますが、ミステリということもあり登場人物やセリフがギュウギュウ詰めで「どうも森泉さんのイメージと違うぞ…」と思っていまして、新刊の「フロイトの燃える少年の夢」も気になりますがまずは本来の画風を楽しみたい…と買ってみました。

 結果は大成功、素晴らしい本でした!

 いちばん好きなのは巻頭の「最後のフェリー」でした…普段は筆や爪楊枝に水をつけて描いた描線に墨をたらす(仕上げはデジタル)森泉さんですが、この作品はボールペンで描かれたとのことで「ボールペンでここまで描けるんかいっ!」と早速一発くらいましたが。ヴェネツィアが舞台の恋愛譚。

 他にもホラーや、安永知澄さんらと出している「ランバーロール」掲載の純文学風味な短編たち等、良かったです。

 この本は作品によって色のついた紙を使っている「仕掛け」があるんですが、コスト面ではマイナスでしかないこんな企画を通してくれる漫画が好きな編集さんがいるんだなあ…というのも好感ポイントです。

2022/11/23

クラスのアイドルは今日も推せない 全1巻 荒木美咲さん

 正直言って「傑作!おすすめ!」とまではいかないのですが、連載で読んでいてじわじわと好きになっていった作品なので買いました。荒木さんは5年ぐらい前にデビューされた方で初連載・初単行本です。

 (たぶん)女子校を舞台に、アイドル的存在の高山さんが目立たない親友の花咲さんをアピールしようとしては失敗するコメディですが、良くも悪くもこの作品の特徴は「アイドルオーラがビカーッ」という描写のわりに、高山さんのビジュアルが「そこまでのもんか…?」と思ってしまうところです(荒木さんごめんなさい)。


 でもそこが個人的には好きなんですよね…陽だまりでごっこ遊びに興じる子どもたちを「フフ…」と眺めているような、そんな感じです。

 お気に入りのキャラは高山さんが好きだけど素直に言えない桂木さんです。メインの2人は性格的にも味付けが薄くて、もう少し作り込んでほしかったですが。


 終了が急だったこともあり、単行本化でおまけがつくかなと期待していました。前半に各1ページのおまけ漫画が3本ついてましたが後半はイラストにパワーダウン。ただ小さい頃のエピソードが読みたかったのは満たされました。

 総じて、小粒ながらシフォンやマシュマロのようなふんわりした感触の作品でした。

 作品の中身とは直接関係ありませんが、日頃紙のテクスチャやインクにこだわっているのが好評なハルタの単行本としては珍しく、そこらにあるツルッとしたコート紙の装丁だったのは気になりました。予算が割かれなかったのか、紙の値上がりは知ってますので今後こういうケースが増えていくのか…。

2022/11/20

ハルタ99号

 今号目につくのは「猫のまにまに」8・「ダンジョン飯」10・「虎は龍をまだ喰べない。」14と、連載作品の減ページです。数年前のハルタでは良くあったものの「青騎士事件」の後は影を潜めていたんですが…ひさしぶりにショートじゃない読切が何作か載ってはいますが多くは質が伴わない。連載数の増加もありますが、次の100号企画にリソースを取られてるのが主因と思います。こういう特典ものって読者にとっては嬉しいのですが「諸刃の剣」でもあるなあと最近思ってます。

あかねさす柘榴の都 18話 福浪優子さん

 グラナダといえば…のアルハンブラ宮殿観光記。漫画でのアルハンブラといえば「チェーザレ」が印象に残っています。渡航制限の関係で福浪さんが現地をご覧になるのが可能になったからかどうかはわかりませんが、がっつり描き込んでます。
 それもトピックですが、今回無視できない変化があったと思います。絵ではなく話作りの面で。従来の福浪さんは人物の心理を表すのにどちらかと言えば表情や仕草を使いがちだったと思いますが、今回はモノローグで夏樹の心の深いところまで降りて行ってます。コマ割も今までにない感じでした。

対岸のメル 5話 福島聡さん


 好調の連載、今回もすごくいいです。白衣メガネの理科教師というと「恋の絶望行進曲」にも出てきましたが。メルちゃんが側にいるのに頬を赤らめて先生を質問攻めにするワキャくんですがだんだん不穏な方向へ…。この連載は若手に道を譲るように年6回掲載ですが、その分丁寧な作画が楽しめます。唯一無二の福島ワールド。

涙子さまの言う通り 7話 山本ルンルンさん


 待望の単行本1巻が1月に出るようで嬉しいです。涙子の周囲を嗅ぎ回る沢渡ですが「慈愛の涙」は警視庁内部にも入り込んでいて、警告のように犠牲者が。昭和初期の街の感じがいい味わいです。

花園に幹が立つ 2話 野澤佑季恵さん


 いちばん読むのを楽しみにしてました。前回の感想で「ハーレム漫画ではないよ」と書いたんですが、今回わりとハーレム漫画でした…扉絵から。んで扉絵の直後は百合。前回の挨拶の作法に続き襟のリボンの結び方が出てきましたが、毎回こういうトリビアを挟むパターンなんでしょうか。開始前の予告イラストに描かれてた子が揃って、これからですね。

生き残った6人によると 24話 山本和音さん


 タイトルが「波乱の後」。モールを離れた3人を案じながら残った4人はなぜかファッションショー。12月発売の4巻に収録されるのはこの話までで、今回のヒキも強いです。

虎は龍をまだ喰べない。 17話 一七八ハチさん


 短いですが充実した回でした。千年生きる龍を上回る長命種の登場。物語の軸となっている龍という種族をめぐる謎の一端が明らかになるんでしょうか。

いやはや熱海くん 7話 田沼朝さん

 そろそろ単行本が出てもおかしくないですね(追記:1月に出るようです)。今までモブでしか出なかった女性のキャラが登場です。だんだん絵が良くなってきました。

夜の名前を呼んで 23話 三星たまさん


 今のハルタ連載陣の中でも絵柄の変動が大きな三星さん、今回はラフな感じでした。今までミラと他の誰かという1対1のやりとりだったのが、今回はミラ・カプリ・アルデの3者になって話に奥行きが出ました。

猫のまにまに 14話 宇島葉さん

 田中クロフォードさんレギュラー化で嬉しい。短いけど面白かったです。

ハクメイとミコチ 98話 樫木祐人さん

 唯一の伏線と言えるナイトスネイルの情報が。彼女の正体が明らかになる時がほぼ話の終わる時だろうと思います。

熱を帯びるベール 読切 東金桜さん

 八咫烏杯でデビューの東金さん、今回も百合です(じわじわとハルタの百合率が上がっている気がする…)。刺繍の描き込みに執念を感じました。

2022/11/08

月刊!スピリッツ22年12月号

 尾崎かおりさん「犬とサンドバッグ」(今号休載)単行本12月12日発売の告知が出ましたが、「上巻」とのこと。次が「中巻」の可能性がゼロとは言いませんが、寂しいですね。雑誌自体の厚みも今号は薄くて、色々考えてしまいます。

イベリスの花嫁 9話 秋山はるさん

 あと2話…。絵は少し粗いかもしれませんがやむを得まん。「シーツはちゃんと替えてありますから。」のセリフがやけに生々しい。

暗殺後宮 14話 緒里たばささん

 胡貴妃をめぐる話は一旦おいといて、少年皇帝・暁星のエピソードが始まりました。緒里さん、イケメン製造機と化してます!